ツアーレポート「ジョホールバルの蒼い月」

CHAPTER 7 Golden Goal

第5章、つまりキックオフ以降のテキストについては、一度BS1のビデオを見たうえで試合の描写をしている。試合中の記述が淡白なのはそのせいである。そして現地でゲームを見ながら感じたことをそれぞれ結びつくシーンに折り込んだ書き方をしている。ビデオを見ていてちょっとびっくりしたことがあった。BS1のアナウンサーは放送協会に属する身分でありながら、自身何度も味わった苦渋に対し、口を開かずにはいられなかったのだろう。だから、延長がはじまるにあたりあんな言葉を発したのだろう。

映し出された選手たちの姿「ここにいるのは彼らではありません、私たち自身です。」

一体何人の人がこのアナウンサーの台詞を自分のものとして、自分自身のこととして受け止めたかは分からない。でも、だから僕たちもここまでやってきた。自分自身のことであると思ったから。そして今、ここにいる。みんなも家の中か外かは知らないがテレビの画面を見ている。

ゴールデンゴール方式の延長戦に突入。選手たちはピッチの上にいなければならない。イランの選手たちはお祈りできない。日本は、ここで北沢に替えてついに野人岡野を投入してきた。ただでさえ足の速い岡野を相手が疲れているときに使うのは効果的だとは思うが、攻守のバランスはどうするのか、正直言ってちょっと疑問だった。私は1次予選のオマーン戦の時、彼が超決定機を外したのを見ていたということもあるかもしれない。とにかく、あと30分、サドンデス方式の延長戦だ。日本が「Vゴールの母国」といっても何か特別な勝ち方を身につけているわけではないが、イランよりは慣れていることもまた確かな事実だ。スタンドからは当たり前の光景としてなんとなく見ていたというのが正直なところだったが、後に語り草となる、いつもより大きな円陣が組まれた。

延長前半キックオフ、名波〜城、城をポストにして岡野が小さくフェイントを入れてシュート。しかし当たっておらずアベドザデは難なくキャッチ。

中田からのボールを受け岡野がドリブルで突破。このスピードはまさにカニーヒァ級。シュートはブロックされる。岡野おおおおおおおおおおおお。みんなその場に崩れ落ちる。でも、「やっぱり・・・・」という気持ちで見ていた。アベドザデが倒れて痛がっている。

名良橋、カットとターンが混じったきれいなプレー。左足でのセンタリング。城がアベドザデと競り合うが勝てず。相馬のシュートもDFにあたる。

名良橋、ミナバンドに削られる。中田のFKは低く相手にクリアされるが、名波の左足ロングシュート。しかし枠は外す。

呂比須が引っ張られFK。名波が蹴るがイランがクリア。イランの選手はトラップが小さく体から離れない。

延長前半10分。中田のセンタリング、城のヘッドはアベドザデの正面。

相馬が左サイドで切返しての右足センタリング。城に合わず

イランの直接FK。ハクプールのミドルは壁に当たる(CK)。日本、ボールを奪えずピンチが続きファールで再びFKを与えてしまう。しかしこのFKで日本がボールをカット。カウンターになり、中田のパスを受け岡野が一人を抜き去りアベドザデと1対1、誰もが決まったと思った瞬間、野人は何と中田にリターン。相手DFがクリアしてCK。みんなまた崩れ落ちる。ニアポストはノーチャンスだが股間は狙えたと思う。岡野について一つ言えること「野人に考える時間と選択の余地を与えてはならない」。

CKはファーの呂比須に合わせるが、イランのDFがクリア。大外にいた井原がカットして再度中田に出すが中田のセンタリングは遠くにクリアされる。クリアボールは日本がつなぐがアベドザデが結局抑えた。しかし動き出しが遅く、呂比須が挑発に行ったところで遅延行為に対する新ルールによる間接FKを得る。最初バックパスを取られたのかと思ったが、フィードできる体勢になってから一定時間内にボールを自分の支配から外さなかったことによるものだった。超至近距離のFKだが、このパターンはまず入らない。柔らかいボールを蹴れる呂比須が蹴ると思ったが、名波も中途半端なキックで終わってしまった。

岡野のミスパスがイランDFに当たったこぼれ球を中田が拾い浮いたところを右足アウトで名波へ、名波、中田でワンツー、中田がラインぎりぎりで折り返し呂比須がシュート、アベドザデに当たって跳ね返ったところにフリーで岡野が走り込むがふかす。日本、激しい攻撃。岡野、ケガかと思ったがスタッフが大丈夫のサイン、スタンドは大きな拍手。ゴールキックとなったところで前半終了のホイッスル。イランはすごく休みたそうにしていたが、延長戦の場合はすぐ後半が始まる。この辺は延長慣れしている日本の方が自然に見えた。今思えばこの差は大きかったのかもしれない。

延長後半、キックオフを日本が始めてしまい、やり直し

名良橋、突破からCKを得る。名波のCKはクリアされるがボールは再び名波のもとへ。中田にパス、ファーのフリーな秋田へ、秋田のセンタリングはクリアされ、イランのカウンターになりかけるが中田がダエイをフォアチェックする。

アジジ、日本のペナルティエリアでキープするが、井原がカット。頭に来たアジジが井原を引っかけイエロー。

ヨシカツのフィードで城が突き飛ばされFK。中田はファーの井原に合わせるがトラップミス。エンドラインを割る。

中田がやたらと元気である。どうなってんだ、こいつは。

中田の突破からCK。名波ショートコーナーから中田がニアの城に合わせるがアベドザデと交錯する(キーパーチャージ)。アベドザデはポストにぶつかったらしくここぞとばかりやたら痛がり、刻々と時間が過ぎていく。本当に痛いのだろうか。イランはもう完全にPK狙いだ。GKの痛み具合からPK戦になっても負ける気はしなかったが、出来ればゴールを入れて決めたい。そう思いながら見ていた。イランは相当足に来ているが、こっちも疲れてきているのが分かった。有利な状況で決めてしまいたい。もう少しだ。もう少しがんばろう。

山口から名波、ちょっと下がりながら左足でスルーパス。中田が走り込み中央へ、城が合わせターンするがシュートは撃てずイランDFがクリア。そのボールが呂比須のもとへ渡り左足シュート。イランDFに当たる。さらに名良橋が撃つがこれもイランDFに当たる。アベドザデ、また痛がる。

中田が岡野に合わせるが岡野は届かず。しかし岡野は好チェイスで相手のパスをブロック、イランのスローインに変わる。

イラン、最後の力を振り絞りフリースペースを使ってカウンターアタック。ミナバンドのセンタリングから半身抜け出したダエイのシュート。これしかない、この一発に賭けていたのだろう。一瞬凍った。ボールが僕たちに向かって飛んできた。弾道からしてゴールに入ったと、負けたと思った。だが、ボールはネットを揺らすことなく、僕たちにもっと近づいてきた。深く、大きな安堵のため息をこぼした。「さむー」とKは呟いていた。そして、その時はそれからすぐやってきた。

呂比須が高い位置で突っ掛けイランからボールを奪う。一瞬重なったようにも見えたが中田にパス。中田はやや後ろに下がりながら斜めにドリブルを始めペナルティエリアに近いところで左足を振りぬいた。アベドザデが懸命にはじく。しかしはじいたところには、はじいたところには、野人が駆け込んでいた。スライディング一閃。反対側のサイドに小さく見えるゴールネットが揺れたのが確かに見えた。やったあああああああああああああああああああ。その時自分は「やったあ」しか口走っていなかったことを覚えている。そして何度もその場で飛び跳ねていたことを覚えている。泣きながら、仲間と抱き合ったことを覚えている。あとでFは「独りになりたかった」と語った。Kは早く帰らなければならない前列のサポーターと握手を交わしていた。Nは僕たちが貼った国旗をはがしに行った。きっと泣いていただろう。そう、僕たちは勝ったんだ。ワールドカップに行けるんだ。こんな嬉しいことが他にあるだろうか。

CHAPTER 6

CHAPTER 8

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