ツアーレポート「ジョホールバルの蒼い月」

CHAPTER 8 We've Gotten It

選手たちもみんな抱き合って喜んでいた。イランの選手たちはその場に座り込んでしまっていた。サポーターたちがみんなで行こうフランスと高らかに唄う。サポーターたちが金網を乗り越えようと試み、ポリスにこん棒で叩かれる。全員でのビクトリーランはなかったが、選手たちがそれぞれ駆け寄ってきて手を振ったり国旗を振ったりして喜びを分かち合った。両手を交互に上げ下げして自分のテーマを煽る32番の選手もいた。岡野は上半身裸になっていたため、サポーターと間違えられ警察に腕を捕まれていた。「おーい、そいつは選手だぞー」と叫んでやった。

スコアボードをバックに写真を撮ったり選手に手を振ったりと、みんなで歌を歌ったり、ずっと余韻に浸っていたかったが、帰らなければいけない。Nが「月だ」と呟いた。インドネシアの火山による煙害こそ雨季の影響で消えてきてはいたが、大気は冬の日本のように澄んでいるとは言い難い。私も90分を終えたとき、夜空を見上げ、南十字星は見えないが周囲がうっすらと青っぽくかすんだ月が出ているのに気がついていた。Nは「ジョホールバルの蒼い月。これで行きましょう。」と話していた。日本のみんなは同じ月を見ているだろうか、そんなことを考えたりしていた(後日談になるが、日本に残っていたSは試合前月が出ているのを見て、「あいつらもこの月を見ているんだろうか」と思ったそうだ)。

照明が消えてしまった階段を降り、スタジアムを出た。入場のとき没収された旗のポールをどうするかということになったが、節目だしということで、置いて帰ることにした。それにしても、夜中だっていうのにみんな大騒ぎしている。歌を歌ったり、川平慈英さんの真似をして「フランス行ってもいいんですか」「いーんです」なんて言ってる人たちもたくさんいた。バスに辿りついた後もツアーメイトたちとともに喜びを分かち合った。ガイドさんも祝福してくれた。Nは怪しい帽子を買い叩こうとしたがレア物とか言われ逆に足元を見られ、値切りに失敗した。バスは駐車した位置が絶妙で、すぐに出ることが出来た。バスの中から「NIPPON」と書いてあるマフラーを掲げる。歩いているサポーターたちがみんな手を振り応える。最高の一日である。FやNは最初の海外旅行でこの歴史的瞬間を目の当たりに出来たのだ。本当に幸せだよ。最高の海外旅行だよ。バスの中で気がついたことは、日本がゴールデンゴールでの出場を決めた初めての国であること、今日の試合はまさにこの2ヶ月余りを凝縮したような試合であったこと。

ほとんどどさくさ同然の出入国を終え、ジョホールバルを出てフランスへと続くコーズウェイを渡り、シンガポールへ入った。夜中とあって道は空いており、15分ほどでホテルに着いた。現地時間の午前1時半頃であった。汗やらほこりやらですっかり体が汚れていたので、シャワーを浴び、ホテルの部屋で冷蔵庫にあるくらいのビールを出して祝勝会をした。FとKの部屋の冷蔵庫が開かなかったので、ボーイを呼んで鍵を開けてもらった。ボーイはチップをはずんでもらいたかったのか、なれなれしく「ジャパン・ゴールデンゴール?」とか「ミウラ、ゴール?」とか話しかけてきた。もちろんチップははずんでやった。そんなやり取りを間に挟みながらこの2ヶ月余りのことを、今日のことを振り返った。どうだ、だからいっただろう、諦めるのは最低だって。東京でUAEに引き分けたとき、一番荒れたときでも今後の展開を読めば諦めるなんて事は出来なかったはずだ。UAEがこのまま2勝すれば終わりなのは事実だが、そんなふうにことが運ぶわけはない。自分たちさえしっかりすれば絶対2位に入れる。そう思うのが自然だったと思う。とにかくいろんなことを話した。馬鹿な話とか、岡野がサポーターと間違われたこととか、これからどうしようかとか…。でも、みんなかなり疲れていたので休むことにした。せっかくシンガポールまで来たのだからもう少しゆっくりしたかったけれども…。

11月17日、モーニングコールは5時半。2時間寝たかどうかである。急いで身支度を澄ませ荷物を持って昨日とすっかり同じ朝食を摂った。昨日のビール代を精算し、チェックアウト。今日のガイドは男性で日本語もしゃべれるのだが、かなりいい加減な性格でバスが何号車とかというのを全然把握していなかった。チャンギ空港に到着してからもチェックインでバラバラの席しか取ってこないし、預け荷物の手続きも忘れるし、パスポートは返さないしで結構疲れる奴だった。搭乗手続きを終え、チャンギ空港にあるはずのインターネットが出来るコーナーを探したが見つけることが出来なかった。日本が今どんな風になっているのか知りたかったがそれもわからなかった。トップニュースにはなっているはずだ。みんな眠い目をこすりながら出勤し、勤務先ではどうせ仕事なんかしていないで試合の話ばかりしているんだろうなということしか想像がつかなかった(僕たちはちゃっかり休みを取っているけど)。他にはホテルのカウンターに置いてあるモニターの文字放送が昨日の試合の結果を表示し、CNNヘッドラインが岡野のVゴールシーンを映し出していたことをFから聞かされたくらいだった。

空港内の免税店で、お約束のマーライオンチョコと、マーライオンパークで買いそびれたマーライオンのぬいぐるみを買い、搭乗口で手荷物のX線検査を受け、久しぶりにサテライトから飛行機に乗った。JALチャーター機なので、おそらくこのメンバーの殆どがジョホールバルに行っているはず。機長の挨拶ももちろん「サッカー日本代表を応援においでのお客様、ワールドカップ出場おめでとうございます」というもの。ニッポンコールが機内を包む。現地時間午前9時、JALチャーター1760便はシンガポールを後にした。

先のでたらめなガイドのせいで4人が一緒に座ることは出来ず、他の3人はわがままで知らない人と座るくらいならまとまって禁煙席に座ると言い張るので私だけ一人でしかも煙草を吸わないのに喫煙席に座らされた。すごく眠くて頭も痛かったので、機内食を摂ったあとはすぐ寝ることにした。1時間弱うつらうつらした後、頭も冴えてきたのでこの文章の前半部分を一気に(といってもパソコンは持ってきていなかったが)書き上げた。書きながら、本当に今までこんなことだけれども続けてきて、やめたりしないで、諦めないで良かったという思いが込み上げ目頭が熱くなった。途中、往路のときよりもかなり大きく揺れたり、成田上空で待機させられたりもしたが、予定より若干遅れて午後5時頃、無事に成田に到着した。

CHAPTER 7

CHAPTER 9

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